『源氏物語』からさかのぼって古代人の心を知る【1】

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こんにちは、yurinです。

古代史日和のブログでも何度も名前が出ている安本先生ですが、
青山学院大学文学部で「文章心理学」「日本語の起源」を教えていらっしゃいました。

月一度の「邪馬台国の会」では、「日本民族の起源」「日本語の起源」から、
天武天皇・持統天皇までの通史
を講義されています。

さらに新宿・横浜のカルチャーセンターで、『古事記』『日本書紀』
『続日本紀』『風土記』『古語拾遺』『先代旧事本紀』『倭国伝』
のご講読をはじめ、
『万葉集』の難訓歌や『古墳』などの講義もされてきました。

私が先生の古代史や国文学の講座を知り、40年ほどになりました。

1.いずれの御時(おおんとき)にか

「歴史は総合の学である」とする先生のテリトリーは、江戸時代の国学者のように幅広く、
第二次大戦後に、上代古典と真摯に向きあって文献考証をされた数少ない学者の先生です。

大学の国文科でも『風土記』の講座などは皆無だったので、
安本先生の『風土記』の講座が開講して、まず『常陸国風土記の本文の解釈が始まった時、
「やっと、知りたいことが勉強できる」といううれしさがこみあげてきたことを思い出します。

安本先生も、ここ数年はさすがにどの講座も月1度のペースになっていますが、
長年にわたり各講座は週1回2時間(「邪馬台国の会」は3時間以上)という驚異的ペースでした!

毎回の授業で配布される10枚以上の資料には、
語句の意味、動植物・服飾などの絵図や写真、系図、地図、神社、
考古学、統計、関連文献、新聞記事、先生の考察などで埋め尽くされます。

このように安本先生による古典の文献考証は、詳細で多岐にわたるので、
1回の授業では古典の本文2ページ進むかどうかです(汗)

 

たとえば『日本書紀』の神話で、

伊奘諾尊(いざなきのみこと)……筑紫(つくし)の日向(ひむか)の小戸(おど)の橘(たちばな)の憶原(あわぎはら)に到りまして、禊(みそ)ぎ秡(はら)い給(たま)う

というか所では、憶(あわぎ)の木が、カシの木かモチの木かで、何十分も費やすのです(大汗)!

こちらはオガタマの木

伊奘諾尊ゆかりの多賀神社(福岡県直方市)

そういうわけで始めの頃は、

「こんなことに時間をつかわないで、早く神武東遷に進んでくれないかしら……」
なんて思った覚えがあります(苦笑)

……あれから何十年……すっかり安本マジック?にかかったおかげでしょうか。

なんと!神社を参拝してご神木や樹木を見て回るのが面白くて仕方ない、
という状況になっています(拍手)

そうした長年の講座の中での、先生の味わい深いお言葉の一つが、

「いずれの御時(おおんとき)にか(どの天皇の御代(みよ)であったか)で始まる、
『源氏物語』から遡ることで、古代の人の心がよくわかった」です。

安本先生は、大学在学中に『源氏物語』「宇治十帖」の作者について、
言語学的に分析された論文を書かれて認められたそうです。

そして上代古典を次々に文献考証されていく中で、
ついにそうした感慨に到達されたようです。

「源氏物語」宇治十帖の「橋姫」のハンカチ

京都宇治のおみやげ

『源氏物語』「橋姫」の和歌

2.『風土記』にみる天皇の時代の認識

『源氏物語』の巻頭の「桐壺」は次のように始まります。

いずれの御時にか、女御(にょうご)、
更衣(こうい)あまた侍(さぶら)い給(たま)いけるなかに、

いとやむごとなき際(きわ)にはあらぬが、
すぐれてときめき給(たま)うありけり

どの帝(みかど=天皇)の御代(みよ)であったか、たくさんの女御(皇后の候補になる女官)や
更衣(女御に次いで、天皇の身の回りのお世話をする女官)がお仕えしていた中に、
 
それほど高貴な身分ではなかったけれども、
帝(みかど)からたいそうなご寵愛(ちょうあい)いただいていた方がおられました)

「どの天皇の時代か」と、天皇の世代によって時代を語ること、
「それほどの高貴な身分でない」という、家柄を重んじる社会、

『源氏物語』の冒頭の一文からうかがわれるエッセンスだけでも、
そのまま『古事記』『日本書紀』につながっていきます。

 

また『風土記』は、それぞれの国ごとの地理、産物、言い伝えなどが記されていますが、
そうした中で、どの風土記にもやはり「各時代の天皇や皇居の名称によって時代を語る歴史観」で貫かれています。

埼玉県行田市の「稲荷山鉄剣の銘文」や熊本県玉名郡の「江田船山古墳の鉄剣の銘文」も同じパターンです。

もし大和政権と無関係の地方の豪族なら、別の形式の表記があってよさそうなものですが、
そういうことはいっさいなく、天皇家の系譜に見いだせる天皇や皇居の名称が記されています。

つづく

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