大国主命が求婚するヒスイの女神 奴奈川姫(ぬなかわひめ)【2】

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大国主命が求婚するヒスイの女神 奴奈川姫(ぬなかわひめ)【1】のつづきです。

4.大国主命と奴奈川姫の御子、建御名方命が生まれる

大国主命の求婚に対して、沼河姫はすぐには戸口を開かないで、歌を返しました。

『古事記』ではこのように書かれています。

八千矛(やちほこ)の 神の命(みこと)は ぬえ草の女(め)にしあれば 我(わ)が心 浦渚(うらす)の鳥ぞ 今こそは 我鳥(わどり)にあらめ 

後は 汝鳥(などり)にあらむを 命(いのち)は な殺(し)せたまひそ いしたふや 天馳使(あまはせづかい) 事の 語言(かたりごと)も 是(こ)をば

 

(八千矛の神さま。 私は風になびくはかない草のような女でございますもの。
 
心ではいつも水辺の鳥のように夫を慕っております。
 
今は自分の思うようにふるまっている鳥ですが、これからはあなたさまのお心のままになる鳥です。
 
ですから、どうか鳥たちを打ちたたいたりなさらないでくださいね。
 
空を飛ぶ遣いの鳥よ。……このように語り伝えましょう。)

『お諏訪さま物語』より

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青山に 日が隠らば ぬばたまの 夜は出でなむ 朝日の 笑(え)み栄え来て 綱(たくづの)の 白き腕(ただむき) 淡雪の 若やる胸を そだたき たたきまながり 

真玉手(またまで) 玉手さし枕(ま)き 百長(ももなが)に 寝(い)は寝(な)さむを あやに な恋い聞こし 八千矛(やちほこ)の 神の命 事の 語言(かたりごと)も 是(こ)をば

(森の彼方に日が沈んで夜になりましたら、きっと外へ出てあなたさまをお迎えしますから。きっと朝日のように輝く笑みを浮かべて、あなたさまはいらっしゃいますね。
 
そして私の楮(こうぞ)のように白い腕、淡雪のように白くやわらかな胸を、優しく愛撫してからませ抱き合って、玉のように美しい手を枕にして、脚を伸ばして安心してお休みくださいませ。
 
ですからどうか今からそんなに恋い慕ってくださらないように。
八千矛の神さま。このように語り伝えましょう。)

「かれ、その夜は合わずして、明日の夜、御合(みあい)したまいき」と、あります。

こうして奴奈川姫と大国主命は結婚しました。

 

日本の男神さま女神さまがおりなす、恋愛心理の絶妙なやりとりは、現在の私たちが読んでもそのまま納得できるような普遍性を感じます!

二千年前の男女の息づかいが、時空超えて、今も生き生きと聞こえてくるようです。

 

この後、古事記では、出雲の国譲りで登場する建御名方命(たけみなかたのみこと)が、大国主命の御子であることは、書かれていますが、母ははっきり記されていません。

 

先代旧事本紀

(大国主の命は)高志(こし)の沼河姫を娶り、一男がお生まれになった。
 
御子建御名方(たけみなかた)の神は、信濃の国諏方郡(すわのこおり)諏方神社に鎮座される。

とあり、大国主命と奴奈川姫と建御名方、三人の親子関係がはっきりわかります。


※クリックで拡大します

今年のゴールデンウィークをはさんで、長野県諏訪市SUWAガラスの里美術館で、川崎日香浬氏の日本画展「母と子の神話」の展覧会が開催されました!

合わせて『お諏訪さま物語』の絵本を出版されたのです。

親子で楽しめる絵本です。

そればかりでなく、後半は奴奈川姫と建御名方命の、丹念で豊富な現地情報とその考察がなされて、大人の絵本にもなっています。

日本の古典を愛するものとして、この上ない喜びです。

個展については、季刊邪馬台国130号にも掲載しています。

5.奴奈川姫のご研究に捧げる先生

日香浬先生とご縁ができたのは、糸魚川にお住まいの土田孝雄先生のご紹介によるものでした。

土田先生は、30年ほど前から私淑(実際にお会いしてなくも心の中で仰ぐ師)する先生でした。

何しろ、今のようにインターネットもアマゾンもない時代です(大汗)

神話の中の「八尺瓊(やさかに)の勾玉」を探究し始めて、土田先生の『翠の古代史』というご著作に辿りついたのです。

何度か国会図書館に通って、ようやく読破することができました。

 

北アルプスの白馬連峰から流れる姫川支流の小滝川にヒスイの原産地があります。

白馬三山

雪国の春に生みだされる、生命力の象徴といえる緑のヒスイです。

地元でヒスイや遺跡と長年向き合った土田先生ならではのご視点から、ヒスイ製品の製作工程を明らかにして、さらにそのヒスイの精神性や玉の宗教性を深く洞察されています。

そのご教示を得て、ついに神話の中で、天照大神が持っている、三種の神器の一つの「八尺瓊の勾玉」が霧の中から姿を現した、という感慨でした。

土田先生に、実際にお目にかかりご教示いただけるようになったのも、奴奈川姫のご縁です。

『翠の古代史』以外にも土田先生のオススメ著書がありますので、紹介しますね。

6.奴奈川姫の絶大なパワーで広がるご縁

振り返れば、30年ほど前に『季刊邪馬台国』に「第二代綏靖天皇の実在性」を書いたのが、私の「ヌナカワとヒスイ」の始まりでした。

第二代の天皇名は、『古事記』では「神沼河耳命(かむぬなかわみみのみこと)」、『日本書紀』は神渟川耳尊です。

125代の歴代天皇の中で、ただお一人だけ地方の地名が入り、さらに神武天皇とならんで「神」がついているお名前なのです。

 

この論文を、九州の福岡では、河村先生が目にとめてくださり、ご縁ができました!

「奴奈川姫は絶大な力があるみたいです」と、日本画家の日香浬先生。

 

日香浬先生は出雲大社、諏訪大社へと絵画を奉納されて、そのご縁によって、糸魚川市、諏訪市、出雲市、松江市、上越市の首長、諏訪大社・出雲大社のご神職、関係者の方々が集い、文化交流がなされています。

 

まさに「神話が結ぶご縁の会」は広域におよび、日香浬先生は『景行天皇の日本武尊』という大和の神々の世界も独自の日本画で再現されて、古典のご縁はさらに広がっていく勢いです。

 

神話では、伊奘諾尊(いざなきのみこと)・伊奘冉尊(いざなみのみこと)は、天つ神から「玉と矛」を授かり、天照大神も高天の原の統治にあたり、「首飾りの玉」を授かっています。

宗像三女神の二神も「玉」をご神体としています。

緑と紫のヒスイです。

縄文時代から神宝とされて「国石となったヒスイ」

日本人が好む、万物の生命力の象徴のような緑のヒスイ

それをお祭りする奴奈川姫

 

このご縁はどこまで広がるのでしょうか。期待が果てしなくふくらんでいます。

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