こんにちは!yurinです。
ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ氏について、先日お伝えしました。
イシグロ氏の関連記事はこちら
感情というものを大切にしているというイシグロ氏でしたが、「日本特有の文化としての漫画」の魅力も語っていました。
イシグロ氏が日本にいる時代は、子供だったので、
「漫画は大好きで、日本文化そのものとして心に残っています。今後は漫画小説も書いてみたい」
(NHKBS「ノーベル文学賞カズオ・イシグロが語る”世界“」より)
と、とてもうれしい発言でした。
やはり自分の少女時代を振り返ると、いつも漫画がありました。
「漫画」によって、古典や古代史の、そして人生の!門戸は開かれたのかもしれません(微笑)
中でも里中満智子氏は、格別な思いがあります。
恋愛観が深いし、とにかく里中先生の絵が好き!
さらに古代の人物の一人一人の感情に入り込んで、人物像を深く考えさせていただけます。
昨年、その少女時代の憧れの里中先生と、鳥取市河原町で開催された「大国主命の妻たちのサミット」で触れ合えました~♪
目次
因幡(いなば)の八上姫(やがみひめ)のふるさとで
『古事記』『日本書紀』によれば、出雲の大国主命(おおくにぬしのみこと)の正妻は、素戔嗚尊(すさのおのみこと)の娘の須勢理姫(すせりひめ)です。
大国主命は、素戔嗚尊(すさのおのみこと)の息子であるとも言われますが、母親の出自が、低いものであったかもしれないです。
本来は跡継ぎにはなれないポジションのようでしたが、須勢理姫(すせりひめ)の婿養子に入る形で、出雲の国を継承することになります。
大国主命
大国主命は、須勢理姫(すせりひめ)の心を獲得しますが、父の素戔嗚尊(すさのおのみこと)は、二人を引き裂こうと、次々と難題をもちかけます。
『古事記』では、ピンチを乗り越え、チャンスをものにして、ついに素戔嗚尊(すさのおのみこと)は、
生太刀(いくたち)・生弓矢(いくゆみや)をもちて(略)
大国主の神となり、また現(うつ)し国玉(くにたま)の神となりて、我が娘、須勢理姫(すせりひめ)を嫡女(むかいめ=正妻)として、(略)
高天の原に千木高(ちぎたか)しりて居(お)れ
と、めでたく後継者指名を受けたのでした(拍手)。
「生太刀」「生弓矢」は、霊力ある太刀や弓矢で、武力を持ち支配権を譲り受けたあかしとなるものです。
そして高天の原に届くほど、立派な千木(ちぎ)を、高々と屋根に掲げた宮殿にすむことも許可されたのでした。
千木は神社の本殿などで、屋根の上のサイドに突き出して交差させた装飾です。
「あれは高く上がっている!」と、今も社殿の見どころになっています。
そして大国主命は、ここからさらに勢力を広げて、遠方に足を運び、次々と妻を求めたのです。
まず初めに大国主命は、兄たちとともに隣国の因幡の国の、八上姫(やがみひめ)のもとへ求婚に向かったのでした。
八上姫像(白莵神社)
2016年3月に、その八上姫のふるさと、鳥取市河原町で「大国主命の妻たちのサミット~古代日本海文化圏の交流~」のシンポジウムが行われました。
過去三回催されたシンポジウムの一環で、「ふることふみの倭(やまと)ごころvol.4」です。
里中先生を囲んでの女子会ならぬ女性だけのシンポジウムです。
里中満智子氏の「女性に支えられる大国主命像」
まず特別講演として、古代史・古典文学に精通し、数々の作品を提出してきた漫画家の里中満智子氏が、「大国主命を支えた女達」をお話しされました。
『古事記』『日本書紀』の描写を丹念に追うと、そこからうかがわれる大国主命は、多くの女性に支えられ助けられて人生を歩んでいます。
それは、
「大国主命が素直な愛すべき性格で、自然に女性の方から支えたくなる人物だったのではないか」
というものでした。
女性をものにするといえば、すぐに武力や財宝や医術が浮かびます。
ですが、里中先生は「優しく素直な性格」ゆえに女性に愛される、大国主命像を語ってくださいました。
さすがの視点での大国主命への洞察力に、たちまちナットクです!
確かに奴奈川姫(ぬなかわひめ)への求婚の歌からも、男性のプライドを捨てたようなストレートさがあります。
……しょうがないわね、なんて思いつつ従ってしまうような愛すべき性格がうかがわれてくるのです(微笑)
里中先生の作品の登場人物はひとりひとり感情に奥深さがあって、そこがとても魅力なのです。
もっと知りたくなります。
そして作中の人物は、それぞれ異なるポジションを尊重して書かれているのです。
人物を多面的な視点でとらえているのが理解できます。
それは、もしかしたら歴史というものに入っていく中で、実に多種多様な人々が、違う価値観や道徳観の中で、それぞれの立場で懸命に生きている、というのを理解することに、自然に導いてくれたものだったのかもしれません。
大国主命の妻となった日本海の女神たち
シンポジウムでは、『古事記』『日本書紀』を手がかりに、地元に残る神話・伝承・信仰などを加えて、女性講師陣が、姫たちへの熱い思いを托して語りました。
出雲
「出雲風土記に描かれる大国主神とその比売神」川島芙美子(山陰万葉を歩く会会長)
高志(こし)
「奴奈川姫とヒスイの霊性~伝説の地を訪ねて」川崎日香浬(日本画家)
宗像(むなかた)
「孤島の女神に八万点の国宝を捧ぐ~天照大神の血をひく御子神たちの苦難の道~」志村裕子(古代史研究家)
稲羽(いなば)
「謎多き女神・八上比売の伝承を読み解く」落合久美(河原町風土資産研究会事務局長)
その後、古代の日本海文化圏の交流に思いを馳せてディスカッションを行いました。
パネルディスカッション
「比売神たちと古代日本海文化圏の交流」
進行:本間恵美子(しまね文化振興財団写真文化事業室長)
主催者の方から
「里中先生が見守ってくださいますし、思い切り姫神さまたちに感情移入して下さい。」
とのご提案いただきました。
敬愛する里中先生の作中人物のように、深い心情を推し量って田心姫を語る、という願ってもない楽しさがわいてきたのです。
すると思いがけないほど、自分が田心姫になったように気持ちも高まりました(微笑)
私がお話しした田心姫については、こちらで紹介しています。
……
講演を終えた休憩時間に、声をかけてくださる方がいらっしゃいました。
「こんなふうに『古事記』を読んでいたら楽しくてしょうがないでしょうね。」
「はい、とどまることなく面白いです!」と即座に申し上げました。
『古事記』の神話の女神さまに興味を持ち、共感していただけたことが、本当にうれしかったです(拍手)
「はるばる鳥取まで来て良かったよ。」
と、おっしゃって下さる方もいました。
シンポジウムを通じて、日本神話の女神たちの実像がおぼろげにうかんでくるとともに、やはり日本の神話には史実の核がある、という思いを深くしたのです。
島を守る田心姫のイメージ
藤原新也氏「沖ノ島写真展」より
つづく